シンシア寝室1 シーンテキスト

城内を歩いていると、大浴場へと続く通路の奥から
誰かが言い争う声が聞こえてきた。

こんな夜更けに一体どうしたんだろう、と思い、
俺は声の方へと足を向けた。

シンシア
「だから、さっきから言ってるでしょう?
私に貴方たちは必要ない、って。
小さくて戦えない者なんて、役立たずだわ!」

鋭利な刃物のような一喝に、俺はやや怖じ気づいてしまい、
結果として浴室をこそこそと覗くような形となってしまう。

湯気とやわらかな熱気に包まれた浴場には、
腕を組んで湯船に立つシンシアと、そのまわりをふわふわと飛ぶ、
ニナとフローリカの、三人の聖霊の姿があるのが分かった。

ニナ
「シンシアちゃん、それはちょっとヒドイ言い方だと思うよ?
私はたしかに役に立たないかもしれないけど、聖霊のみんなは
ちゃんと王子たちの役に立とうと頑張ってるもん!」

フローリカ
「ニナの言う通りよ。私達は私達にしかできないことを担って、
きちんと王子に貢献しているわ。ふん、アンタなんか、ただ図体が
私達よりもちょっとでかいだけじゃない。もちろん態度も、だけど」

シンシア
「――っな!? ……そ、そんな挑発にはのらないんだから。
私はね、王子と共に戦場に立って、魔物と相対しているのよ?
好き勝手飛び回ってへらへらしてればいいわけじゃないの!」

フローリカ
「だ、誰がへらへらとのんきにバカ面さらしてるですってーっ!!」

ニナ
「フローリカちゃん、シンシアちゃんはそこまで言ってないよぉ……」

シンシア
「どうやら心当たりがあるようね? 怒るのがやましさの証拠よ。
いい? 私は日々、自分の身体を鍛え、武に励み、王子の傍に立って、
仲間として身命を賭しているのよ。お飾りのあなた達とは違う!」

ニナ
「……そう、だよね。
シンシアちゃんの言うとおりかもしれない……」

フローリカ
「ちょっとニナ! 何バカなこと言ってるのよ。
そんなことないって! 私達は聖霊で、王子の力になって……、
なってるはず、よ……なってるんだから……っ」

シンシア
「ほらみなさい。ちゃんとした反論なんて出来ないじゃない」

ニナ
「でも……シンシアちゃんのその考え方は絶対に間違ってるよ!
私たちとシンシアちゃんはいろんなところが違うけど、
誰一人として欠けちゃいけないって私は思うもん!」

ニナ
「それに王子は、絶対に私達を役立たずなんて言わない!
王子は……王子はそんなこと、思ってないもん……うぅ……、
ぐすっ……ふぇぇええん……――」

フローリカ
「ちょっとニナ、どこいくのよ!」

ニナが泣きながら大浴場を飛び出していった。
俺は物陰に隠れていたおかげで見つかりはしなかったが、
これでは出るに出られない。

フローリカ
「シンシア……あなた、最低ね」

そう言い捨てるとフローリカもニナを追うようにして、
浴室から出て行った。

シンシア
「……私は、間違ってない……間違って、ないもの……」

自分に言い聞かせるように、
広すぎる浴場の中心で一人、
シンシアが繰り返し言葉を紡いでいた。

やれやれ、と思いながら俺は大浴場へ踏み入った。

シンシア
「――だれっ!?
お、王子!? なんでこんなところに……
もしかして、見られていたのですか?」

頷いてみせると、
シンシアはばつが悪そうに俺から視線を外した。

シンシア
「私は……間違ったことは一つも言っていません。
聖霊の誰よりも、王子の傍で、王子の役に立っているという、
確固たる自負があります。それは、決して譲れないことです」

だからってあんな言い方はないだろう、と俺は嘆息を漏らす。

シンシア
「それじゃあ私は、他の聖霊と大差ない存在だと言うのですか?
小さく非力な聖霊と同程度の貢献しかできていないのですか?
……じゃあ、この大きな身体は、なんの為に……」

小さく握った彼女の拳が、わずかに震えているのが見て取れた。
怒りか、やるせなさからか。はっきりとは分からないが、
俺の中には、確かに悲しさだけが膨らんでいた。

仲間同士での争いや不和は、益体がなく、時に滑稽だ。
けど、当事者でない俺がいくら言葉をかけたところで、
彼女たちの揉め事を解消することなんて出来るはずもない。

シンシア
「――っお、王子?」

だから俺は彼女の頭を撫でてやった。
言葉よりも、行動でしか示せない道があるはずだ。
俺は、自分の名状しがたい想いを、この手に込めた。

シンシア
「私を……叱りにきたのではないのですか?」

俺は首を振った――ん?
意図せずして、俺はソレを視認し、
そして意識してしまう。

シンシア
「……王子?」

小首をかしげるシンシア。
その動きが余計に彼女の大きく実った果実のような胸を揺らし、
俺の意識をさらに釘付けにする。

はりのある白くすべやかな双丘に、桃色のつんとした乳頭。
濡れて頬にはりつく美しい金髪に、僅かに潤んだ碧眼が、
疑問符を浮かべて俺を見つめる。

その光景すべてが、俺の情欲を苛み、
知らず知らずのうちに下半身に血液を集約させていく。

シンシア
「どこか、具合がわるいのですか?
急に腰がひけて……お腹がいたいのですか?」

いや大丈夫だ、と距離をとろうとする俺。
心配顔で距離をつめるシンシア。

……もうだめだ。
俺は観念して思い切り胸を張ってみせる。

そうして、ふくらみかけの下腹部を目にし、
全てを理解したシンシアの顔が、一瞬で紅潮する。

シンシア
「い、いやぁぁぁああああ―――っ!」

局所を両腕で隠しながら、
シンシアは脱兎のごとき勢いで
浴室を駆け出て行ってしまった。

一人になってみると、確かにこの大浴場は広すぎるな……。

俺は聖霊たちの仲違いが、
より強固な絆が生まれる為の契機であることを願いながら、
誰もいなくなった浴室を後にした。